2012年10月12日(金)、渋谷ヒカリエにて、クリエイティブ・シティ・コンソーシアム主催「City Summit 2012 〜次世代に繋ぐ未来の都市(まち)づくり〜」が開催され、約800名が参加しました。
会場内の様子
会場ロビーのパネル・模型展示
「次世代に繋ぐ未来の都市(まち)づくり」をテーマにした、City Summit 2012は、クリエイティブ・シティ・コンソーシアム会長の小宮山宏氏によるオープニングの挨拶から始まりました。
第一部は、安藤忠雄氏による基調講演「魅力ある都市」、第二部は、4人のプレゼンターによるプレゼンテーションと、「次世代都市と官民連携のありかた」をテーマとしたトークセッションという構成で進行し、各プレゼンターより次世代都市の果たす役割や現状の課題など、積極的な提言が発信されました。
なお、イベントの模様は、Ustreamを使ったインターネットによるライブ中継(アーカイブを公開中:http://ustre.am/PtST)が行われました。
当日の概要と参加者の発言趣旨は下記のとおりです。
オープニング
小宮山宏氏(クリエイティブ・シティ・コンソーシアム会長)
本日は、1350名の方からお申し込みをいただき、最終的に800名の方にご参加いただいています。たくさんの方に関心を持っていただき、本当に感謝しています。
私たちクリエイティブ・シティ・コンソーシアムが何をしたいか。それは、二子玉川に世界に誇れる新しい地域を作ることです。
1970〜80年代。多摩川は環境汚染によって非常に汚れた川でした。それが今、毎年200万匹の鮎が遡上するほどの清流に生まれ変わっています。
東京・横浜・川崎といった大都市を背景にしながら、鮎が200万匹も遡上するほど自然環境の修復が成功した川は、おそらく世界でも類をみないでしょう。
しかし、私たちが求めるものはそれだけにとどまりません。そこに、未来に向かう新しい都市を作りたいのです。
そのために必要なものは何か。それは創造性です。異質な人々が交流することで生まれる、新しいクリエイティビティです。
“物量”の時代から“質”の時代へとシフトしている現在、本当の意味でのクリエイティブ・シティを作るためにどうしていくべきか。本日の議論がおおいに盛り上がることを期待しています。
第1部:基調講演
自分たちのまちに眠る地域資源・観光資源をどのように活かしていくべきか。そのために企業や市民はどのように都市づくり、地域づくりに関わっていけばよいのか。世界で活躍する建築家・安藤忠雄氏に、次世代の都市づくりについて語っていただきました。
自身の作品やメッセージの要点をスライドで見せながら、ときにユーモアを交えながら話す安藤氏の姿に、会場はおおいに沸きました。
「魅力ある都市」
安藤忠雄氏(建築家・東京大学名誉教授)
人口が減少し、高齢化が進み、財政は悪化し続ける。日本の未来は決して明るいとはいえませんが、そんなときこそ私たちはもう一度世の中を変えていかないといけないのではないかと思います。
今、世界はスピードの時代です。同時に、韓国、中国、台湾、ロシア、インドなど、大きなアジアの国々と一緒に生きているということをしっかり認識し、考えていく必要があります。本音を言わず、自分の考えをしっかり持っていないようではダメです。自分の考えを持ち、しっかり伝えることができなければ、アジアの人たちと渡り合っていくことは難しいでしょう。今の日本は、アジア諸国にくらべ、スピードも想いもないように思います。
日本は、資源もエネルギーも食糧もないといわれますが、心の美しい大変素晴らしい感性を持った国です。
かつて、ラフカディオ・ハーンの説いた「自然、家族、地域、国」のすべての要素を持ち、ポール・クローデルが「世界で一番美しい国」と賞賛したように、日本はもう一度美しい国を取り戻すべく、考え直さないといけないところにきているのではないでしょうか。
1945年の第二次世界大戦以降、日本は奇跡的な復興を遂げました。それと同じように、もう一度奇跡的な復興を遂げる必要があると思います。
大人は休んでばかりで働かない。子供は目が死んでいる。運動は体の栄養、感動は心の栄養になりますが、どちらもない人が多すぎる。これではどうしようもない。大人が目を輝かせて働き、想像力と勇気のある学生が育たない限り、日本の将来はありません。今の時代は規制が多すぎますが、自分で規制を超え、境界を越え、一歩踏み出さなければ新しい世界は開けないのです。
例えば明治神宮をみてください。戦後の20年にこれだけのものを作ってしまう日本人の想像力と技術力は、世界が驚くほどすごいものです。
目標を持った日本人は強いのです。しかし逆にいうと、目標を見失った日本人は弱い。目標がなければ立ち止まってしまいます。
2016年の東京オリンピック誘致でもいいでしょう。ここでもう一度、強い目標を見出すべきです。そして夢を持ったら、コツコツとそれに向かって進んでいくことです。良いか悪いか瞬時に判断する、勇気ある判断力を持った人になることが必要です。
今こそ次の世代のために、それぞれの仕事の中で何ができるかを真剣に考えることが大切だと思います。
第2部:4プレゼンテーション&トークセッション
安藤忠雄氏の素晴らしいメッセージの後、休憩をはさみ、第2部がスタートしました。
クリエイティブ・シティ・コンソーシアム副会長、富山市長、横浜市温暖化対策統括本部長、石巻市長をプレゼンターに迎え、それぞれの都市づくりについて、プレゼンテーションをしていただきました。
ナビゲーターは、村木美貴氏(千葉大学大学院工学研究科建築・都市科学専攻准教授)です。
ナビゲーター:村木美貴氏
これから、異なる都市規模や都市の課題を持ちながら、先進的な都市づくりを行っております二子玉川、富山、横浜、石巻という4つの市の取り組みを、会場の皆様と一緒にお伺いしたいと思います。
各市がどのような戦略でクリエイティブ・シティを作っていくのか、実現に向けてどのような官民連携の仕組みを持っているのか、次の都市づくりのヒントを紐解いていきます。
(プレゼンテーション1)
「二子玉川に創る、クリエイティブ・シティ」
松島克守氏(クリエイティブ・シティ・コンソーシアム副会長)
私たちが進めている二子玉川のクリエイティブ・シティ・コンソーシアムの目標についてお話し、皆さんと共有したいと思います。
クリエイティブ・シティとはつまり成長戦略です。
日本は今さまざまな課題を抱えています。20年前、中国や韓国のGDPは日本の数十分の一でした。それが現在、同列になってきています。
そのなかで私たちが目指すべきは、経済大国になることではなく、経済強国になることです。イノベーションを生み出す「クリエイティビティ」、これこそが日本の力であり、成長戦略だと考えます。
経済成長の源泉は都市です。
クリエイティブ・シティとは、クリエイティブ・クラスが集積する都市のこと。そして、クリエイティブ・クラスとは、「価値を新しく創り出す人」のことです。
クリエイティブ・シティがこれからの経済成長の鍵となるのです。
クリエイティブ・シティにはさまざまな才能が集まってきます。彼らが融合し、新しいビジネスが生まれ、結果的に経済的な成長につながります。これが好循環していく、成長スパイラルの仕組みを作ることが大切だと考えます。最終的には、この仕組みを日本中に作りたいと考えていますが、まずは一つ形にしてみようということで、二子玉川、渋谷、自由が丘を結ぶ三角形の地域に注目しました。この地域を私たちは「プラチナトライアングル」と呼んでいます。
「プラチナトライアングル」は、総人口、さらには0〜14歳の人口が増加しているという、日本でも珍しい地域です。さらに、人口の3分の1が大学・大学院卒と、教育レベルが非常に高く、年収1000万円以上の高所得者の居住が多い地域でもあります。このポテンシャルの高さを生かし、世界に注目されるような街づくりをしようというのが、クリエイティブ・シティ・コンソーシアムです。
このプラチナトライアングルの要であり、クリエイティブ・クラスが集う都市、それが二子玉川です。
ここには「豊かな自然」「都市のにぎわい」「洗練された都市機能」「多様な才能の出会い」がすべて揃っています。
現在、クリエイティブ・シティ・コンソーシアムの会員は82社あり、それぞれがビジネスの目標を持ちながら活動しています。会員になれば、二子玉川で新しいビジネスモデルの社会実験ができます。もし興味があるという企業がありましたらぜひ参加していただきたいと思います。
繰り返しますが、新しいクリエイティブ・シティが日本の成長を引っ張っていくことこそが私たちの目標です。その結果として、経済強国としての日本の底力を世界に誇示できればと思います。
今日は、世田谷区の保坂展人区長がご公務がお忙しいところ駆けつけてくださいましたので、一言ご挨拶をいただきましょう。
保坂展人氏(世田谷区長)
現在、世田谷区では、二子玉川に来年オープンする予定の二子玉川公園を建設中です。
その予定地で、世田谷区制80周年記念として「世田谷いのちの森づくり植樹祭」を開催しようと、参加者を呼びかけたところ、募集定員よりもはるかに多い750名が集まりました。
当日は、1400本の苗木を植えましたが、祖父、父母、子供と3世代で参加している方もいて、これが20年後には森になるという、素晴らしいプレゼントになったのではないかと思います。
同時に、このようなイベントに多くの人が集まるという、時代の変化というものを実感しました。
今後は多摩川の河川敷を使って、環境と調和した、子供のための文化的な催しも含め、展開していきたいと思っています。
世田谷区には88万人の区民がいますが、文化施設がまだまだ足りません。本日のようにこれだけの人数が集まれる場所もそんなにありません。それぞれの文化や思いを発表し、交換できるような機会や要素を、ぜひ二子玉川の街の中に取り入れていって欲しいと思います。
最後になりますが、80周年記念のコンサートで子供も大人も歌った中村八大さんの「太陽と土と水を」という歌があります。皆様もぜひ、探して聴いてみてください。
(プレゼンテーション2)
「コンパクトシティ戦略による富山型都市経営の構築」
森雅志氏(富山市長)
私たちの市の一番の課題は人口減少です。厚生労働省の集計値では、2050年の日本の人口は約9600万人となり、3000万人が減ると予想されています。私たちのような地方都市が手をこまねいていると、人口の4割が減ってしまうという、とんでもないことになります。高齢化率も肥大化し、1人1台車に乗っているという状況や除雪作業の負担など、少ない生産性で割高な行政管理コストを負担しなくてはなりません。
それらを食い止めるために、提示したのが以下の三つです。
一つ目は、公共交通を軸としたコンパクトにした都市づくりを進めること。
車に頼らなくても生活ができるよう、公共交通に積極的に公費投入することからはじめました。
二つ目は、市民のライフスタイルを質の高い魅力的なものしていくこと。
三つ目は、地域特性を充分に活かした産業振興を行うこと。
富山市は製造業を中心とした街ですので、単身ではなく、家族で来てもらえるように、社員や社員の家族が喜ぶようなまちづくりをしていくことを目指しました。
コンパクトな都市づくりを実現するために、交通機関にどこまで公費投入するのが妥当か、街の中心部に重点的に投資していく不公平感を市民にどのように納得してもらうかなど、いくつかの難しい問題に直面しましたが、資料を使ってしっかり説明し、消極的にでも共感してもらえる人を増やしていくという取り組みを続けていきました。
もう一度街を元気にするべく中心市街地に投資を行い、公共交通の沿線に住む人には補助金を出すなどしたところ、この5年間でこれまで転出過多だったのが、転入過多になりました。
LRT(Light Rail Transit)を導入し、運行本数を大幅に増やしたり、バリアフリー化を進めたりすることで、公共交通沿線の人口密度を高めました。
具体的には、市内電車の運行頻度を1時間に1本から15分に1本にする、65歳以上の運賃を100円にする、65歳以上の方に限り、どんな郊外からでもバスに乗って中心市街地で降りる場合には一律100円にする、などです。結果、日中の高齢者の利用が格段に増えています。
2009年には、都心部に路面電車のサークルを作り、周辺に人々の住居を誘導しました。さらに、サークル周辺は花で緑化しています。これは、文化度や安心度の高い都市づくりを進めることで、社員や社員の家族に喜んでいただくための一環です。そのほか、外国から宿泊された方には路面電車に無料で乗れるチケットを発行。来月からは、花束を持って電車に乗ると無料になるという企画も考えています。
そういった地方都市のドン・キホーテ的な挑戦が評価され、今年の6月にOECT本部において、世界の注目すべき先進都市の5都市(メルボルン、バンクーバー、パリ、富山市、ポートランド)の中に選定していただきました。
今後、東アジアを中心に増えていくであろう人口減少に直面する都市の、一つのロールモデルとして、これからもしっかり取り組みを進めていきたいと思っています。
(プレゼンテーション3)
「横浜市が実現する環境未来都市とスマートシティ」
浜野四郎氏(横浜市 温暖化対策統括本部長)
横浜市は369万人の人口を有するわけですが、2020年にちょうどピークを迎え、その後人口減少に向かっていくことになります。そのなかでどう効率的な都市づくりをしていくかというと、まずは、鉄道駅を中心とした生活圏をコンパクトな街にし、横浜市全体においてはクラスタ構造の街にしていくという構想を持っています。公共率が高く、利便性の高い街をもう一度作り直そうというわけです。
コンパクトな街をうまく作っていくと、年間90万トンの温室効果ガスの削減になります。これは、杉の人工林で横浜市の2.6倍の森林を保全したという試算になります。
横浜市は、2020年で25%、2050年で80%のCO2の削減を目指していますが、1990年と比べて、減るどころか増えてしまっているという現状があります。
そこで、電気の見える化を通して、非常に効率的な電気の使い方を生活の中で実現していこうと、スマートシティの積極的な取り組みがはじまっています。
さらに、超高齢化の問題もあります。2025年に65歳以上の高齢者が100万人となり、単身世帯が多くなることも非常に大きな問題だと捉えています。
これらに対してどう対処していくか。まずは横浜成長戦略を中期目標で掲げ、環境最先端都市の戦略として、横浜スマートシティプロジェクトを展開しています。
代表例として、市民を巻き込んでHEMS(ホームエネルギー・マネジメントシステム)を展開し、企業の最高技術と組み合わせてエネルギーマネジメントをやっていこうという取り組みがあります。
その実験エリアとして掲げているのが、みなとみらいエリア、港北ニュータウンエリア、横浜グリーンバレーエリアの3つです。
まだ実験段階ではありますが、HEMSのおかげで、昨年の4月〜7月の電気量が20%削減され、3.11の電気量制限がかけられたことを差し引いても、8%分の効果はあったのではないかとみています。
横浜市は、昨年の12月には環境未来都市の指定を受け、超高齢化、あるいは環境問題に取り組んでいくように指示を受けました。
ビジョンとしては、一つの都市の中に自然に恵まれた生活空間、基本的なビジネス空間が共存すること、それから医療・介護・福祉の問題を対処していくこと、成長産業を作っていくことです。
まずは、文化空間、生活空間、自然環境に着目して、創造を支える基盤作りを行っていきます。さらに、つながりを支えるコミュニティ、ガーデンシティ、低炭素、ICTなどのキーワードに加え、スマートグリッドを付加して考えています。
横浜市は環境未来都市の指定を受け、なおかつグリーン成長を目指し、今後も発展していきたいと思います。
(プレゼンテーション4)
「石巻市の挑戦 『世界の復興モデル都市』を目指して」
亀山紘氏(石巻市長)
昨年の3月11日に発生いたしました東日本大震災では、皆様よりお力添えをいただき、改めて感謝の気持ちを述べさせていただきます。
その後、皆様は復興が進んでいるとお考えかと思いますが、はっきり言ってまったく進んでいません。進んだのはガレキの撤去だけです。そういう意味では、これからが本格的な復旧・復興の時期であると考えています。
震災後の4月27日に、震災復興対策室を立ち上げました。
基本理念の一つは、災害に強い都市づくりです。
今回の津波災害で学んだこと。それは、守る、逃げる、そして伝える。
まずは、逃げることを基本とした防災計画を立てることが必要だと考えています。J-ALERTや行政防災無線のデジタル化を進めるなど、複数の手段でいかに市民の方々に危険性を伝えるかということについても、早急に取り組んでいるところです。
次に必要なことは、暮らしの再建です。そのために、働く場所の確保、産業・経済の再生が最も必要であると感じ、企業の再建を進めています。
現状6割ほどの企業が戻ってきていますが、今回支援していただいた絆を大切にしながら、恊働化社会を築き、それが社会全体に広がるような、共鳴した社会を作っていきたいと考えています。
その中において、石巻復興共同プロジェクトを立ち上げました。
新エネルギーを活用した循環型社会、世界最先端のエコタウンの実現等により、産業を再生し、雇用を拡大。同時に、魅力的な都市として、地域、人、金、モノ、人材、産業、経済がしっかりと回るように、石巻を復興させていこうと取り組んでいます。
災害時でも明かりがしっかり灯るような街を作るべく、バイオディーゼル燃料を構築し、地域でエネルギーを生産し、それをいかに管理するかというのがこれからの大事な取り組みになると思っています。
エコシティタウン構造も検討中です。効率的で災害に強い生活を実現する、あるいは食糧の自給率も上げていきたいと思っています。
さらに、太陽光パネル蓄電池HEMSが装着された新規の公営住宅を4000戸建設し、すべての学校、病院などの公共施設にエコセーフティ施設を作っていきます。
市民が安心して暮らせる、住みたいと思えるコミュニティを建設することが大前提です。地域産業の活性化、雇用の促進を総括するスマートグリッドを使ったコミュニティの形成を進め、さらには、高齢者の人口を減らして、若者の定住化を進めていくことも大事です。
石巻の挑戦として、これからも世界の復興モデル都市を目指して進んでいきたいと思います。
(トークセッション)
最後に行われたのは、先程プレゼンテーションをしていただいた4名の皆様をパネリストとして迎えた、トークセッションです。
ナビゲーターは、引き続き、村木美貴氏。
理想となる次世代への構想や、都市発展における官公庁と民間企業の関わり方を、それぞれの立場からお話いただきました。
(トークセッション)
「次世代都市と官民連携のありかた」
ナビゲーター:村木美貴氏
都市づくりという観点からは、ビジョンづくりも非常に大事になってくると思います。ビジョンをどのように描き、どう体制づくりを進められたのか。その中で、どのようなことを大事にし、どのような苦労があったのかをまずお伺いします。
まずは松島先生。クリエイティブ・シティのビジョンと再開発の方向性、その実現において、官とどのような協力体制をとったのか、さらに成功と課題は何だったのか、教えてください。
パネリスト1:松島克守氏(クリエイティブ・シティ・コンソーシアム副会長)
二子玉川の場合は民間が主ですが、地域のことに関しては必ず課題となるのが住民の方々です。細かい規制もありますから、いろいろな意味で、世田谷区の方々のご理解のもとに行っています。
ですから、二子玉川の場合は、ビジョンは民間で作成し、そこから住民地域とのコミュニケーションをはかっていきます。
ナビゲーター:村木美貴氏
続いて、森市長、コンパクトシティの成功例として、ビジョンを描かれるときに何が大変だったのかを教えてください。
パネリスト2:森雅志氏(富山市長)
僕が市長に就任してから、都市の問題点と課題をずっと考えていましたが、やはり人口減少に対応しきれない、拡散を続けているのを止めなければならないという大きな問題に直面しました。
そこで平成15年にプロジェクトチームを作り、あえて公共交通に投資をすることを決断したわけですが、これも最初から全員が賛成していたわけではありません。しかし、将来を考えると、放っておけば廃止ばかりで、負のスパイラルに陥っていくだけです。
将来の人口構造などさまざまなことを示しながら、これは今やらなきゃならないんだということを、住民に対して職員と一緒にかなり熱心に説明しました。最大で150回、今でも年間に50回くらい行っていますが、結局は愚直に説得を重ねていくことに尽きると思っています。
しばしば行政には説明責任があるという議論も出ますが、説明責任だけで終わってはいけないと思っています。不満もあるでしょうが、現在の市民の声だけではなく、将来の市民に与える影響や効果、全体の利益をしっかりと考えて、決断することが大事だと思っています。そして、決してそこからぶれないこと。市の基本コンセプトとしてしっかりと固め、ぶれない体制づくりをすることが大切だと思います。
ナビゲーター:村木美貴氏
今の富山市のお話をうけて、横浜市で苦労されていることをお伺いできますか。
パネリスト3:浜野四郎氏(横浜市 温暖化対策統括本部長)
1970年代、横浜市は田村明さんという優秀な都市プランナーのもとで都市づくりを進めました。一方、みなとみらいエリアはどうだったかというと、民間デベロッパーの三菱重工さんがプランニングに参加されたというのが当時としては珍しかったのではないかと思います。その点で、三菱重工さんの技術力がふんだんに発揮されていると思います。
これからの都市づくりに関しては、もう一度、マスタープランを見直してもいいのではないかと思います。これは、先程言いましたエネルギーマネジメントという側面もありますが、もっと民間や企業の力やアイディアをどんどん取り込みながら作っていくしかないのではないかと思います。
ナビゲーター:村木美貴氏
森市長の立場からすると、ぶれないためのコンセンサス、そして時代に合わせた計画の見直しについては、どのようにお考えでしょうか。
パネリスト2:森雅志氏(富山市長)
平成17年にこの計画を始めたとき、公共交通を中心にした居住エリアに住む人たちは全市民の構成比のうち28%でした。それを、20年後に42%にすることを目標に掲げ、現在は32%まできています。これに関して、計画通りに進めていくことはぶれてはいけないわけですが、例えば、集合住宅に住んでいる人が2戸になったり、3戸になったり、林業に従事する若い人たちをどう支えていくのかという問題だったり、農業構造などの、その他の要件はどんどん変化していきます。それはその変化に応じて見直していく必要があります。ただし、28%を42%にするという路線、これについてはぶれてはいけないと考えています。
ナビゲーター:村木美貴氏
では、亀山市長にお伺いします。復興基本計画を作る上でも非常にコンセンサスが大事だったと思います。これをどのように計画されていったのでしょうか。
パネリスト4:亀山紘氏(石巻市長)
基本計画の策定にあたっては、東北大学と連携協定を結び、いろいろな方々の意見を聞きながら進めてきました。私自身がホームページに復興への想いというのをアップしたところ、それを見てくれて、さまざまな企業に参加していただくことができました。そういう意味では、やはり行政からしっかり説明をする、あるいは自分の考えをしっかり伝えていくことが必要だとあらためて認識しました。
石巻の場合、22年に中心地活性化基本計画が内閣総理大臣の認定を受けました。
公共交通機関の要でもある石巻駅にあったさくらんぼデパートが撤退したため、その建物を市の庁舎にしたのですが、いまだに建物はピンク色で『ナニコレ珍百景』でも取り上げられました。
小さな街ですから、今まで分散していた公共施設を中心に駅前に集積していき、それによって街のにぎわいを取り戻したいと考えています。
ナビゲーター:村木美貴氏
これからの都市づくりという観点では、民を生かして都市を作っていく必要性が高くなると思います。その際に、官が用意すべきもの、考えるべきもの、そして、事業を進めるときのリスクを誰がとっていくのか、そのあたりをお伺いできればと思います。
また松島先生には、プロジェクトを進めるなかで民間側として官にあってほしいものは何かお伺いし、議論していきたいと思います。
パネリスト1:松島克守氏(クリエイティブ・シティ・コンソーシアム副会長)
いろいろあると思いますが、民でできないことはインフラ系です。例えば、個人的には街の中心部には全部無料の無線LANをひいたらどうかと思っています。しかし、ビルの中の無線LANは民間ですが、地域にひくとなると難しい。インフラの部分については民間は手が出せませんから。地域の利益、公共の利益の説明は官が管理していかないと、保障問題にもなります。インフラの問題のようなわずかな刺のようなものをぜひご支援いただけたらと思います。
ナビゲーター:村木美貴氏
今度は公共の立場の方に伺います。
民への協力と市民への意見をうまくまとめていくことについてお願いします。
パネリスト2:森雅志氏(富山市長)
説明していくことが責務だろうと思います。いずれにしても事業リスクというのは将来起きてくるわけで、あるいはうまくいかないときのリスクも発生するわけですから、事業者にも一定のリスクをきっちり認識してもらう。さらにいうと、事業を行わない場合に街全体が衰退していくリスクの方がはるかに大きいということについても認識してもらう必要があります。
100点満点の答えを求め続けていくのでは何も実現しないので、小さなことから官民が一体となって取り組んでいくこと、そこからの成功体験の積み重ねが、次から次へと官民の連携につながっていくのではないかと思います。
ナビゲーター:村木美貴氏
同じ質問について、浜野本部長お願いします。
パネリスト3:浜野四郎氏(横浜市 温暖化対策統括本部長)
地域の状況にもよると思いますが、その地域が誰のために何の目的でやっているのかをきっちり守っていく、そのビジョンの持続性が大事だと思います。ぶれないで、なおかつそのビジョンを長く持ち続けてどこまでできるかということが、官の役割になるのではないかと思います。
ナビゲーター:村木美貴氏
亀山市長はいかがですか。
パネリスト4:亀山紘氏(石巻市長)
今、石巻では公営住宅の建設を一番急いでいるわけですが、やはり民間が建てた建物を買い上げるのが一番スピード感を持って住宅を提供する方法だと思っています。そのため、さまざまな民間の方々に参入いただいて建設に取りかかっていますが、行政側の将来的な負担もありますので、しっかりと民間の方にもリスクを負っていただくことも必要だと思っています。
間接民営化ということで、農業、食物工場、水耕栽培、その他の水産関係などの独自産業も進めていますが、そこでいかに民間の方々が運営管理をしっかりやってくれるかというのも、大変重要なことだと思います。
パネリスト2:森雅志氏(富山市長)
その話に関連して、例えば私どもは環境未来都市に選定されましたが、有機ガスを利用したバイオガス発電も資源になります。それを民間事業者に誘導して行う場合、リーディングプロジェクトを直営で行政が担うということが効果的だと思います。それをみて、農業・産業を考える人が次々とやっていくというのが官民の連携です。
リーディングプロジェクトを行政が担うというかたちもあるのではないかと思います。
ナビゲーター:村木美貴氏
それではここからはもう少し違う観点で話を進めたいと思います。
まずは浜野本部長。これから先のクリエイティブ・シティとして、どのような人々を呼んで、どんな産業を作っていこうとしているのか。つまりどのように選ばれる都市を作っていこうとしているのか、教えていただけますか。
パネリスト3:浜野四郎氏(横浜市 温暖化対策統括本部長)
これは一番悩ましい問題です。とにかくいろいろな人に来ていただくための情報開示には取り組んでいます。芸術、あるいは観光名所という切り口もありますが、いろいろな方に注目され、いろいろな分野の境界を越えて混じり合っていくことで、新たなものが生まれることを期待しています。
さらに、横浜の場合は基本的に、住宅都市という側面が強いので、それと関連して、女性にかなり焦点をあてていこうと考えています。女性民間企業などを行政側が支援をして、新たな雇用を作っていくことが今後は必要なんじゃないかと思います。
ナビゲーター:村木美貴氏
松島先生はいかがですか。
パネリスト1:松島克守氏(クリエイティブ・シティ・コンソーシアム副会長)
人を集めるには2つのポイントがあると思います。
まずは、いい企業といい学校があって、この街なら家族と住みたい、子供を育てたいと思えることです。それから、街がにぎわっていて、楽しいこと。やはり、街に楽しさがあって、家族の安全と健康が保てることが大事だと思います。
ナビゲーター:村木美貴氏
森市長はいかがでしょうか。
パネリスト2:森雅志氏(富山市長)
まったくその通りだと思います。
企業経営者が考えるのは、大切な社員とその家族が安心して住めるかどうか。金沢だったら一緒に行くけど、富山だったらお父さん一人で行きなさいと言われるようではダメだということです。
教育の水準、福祉の水準、文化の水準はどうか、犯罪や災害はどうか、食べ物はおいしいか。あるいは豊かさ。それらのさまざまな要素で総力を上げていくことが大事だと思います。
そして、その延長線上に、安心して暮らせる社会を作っていくことが同時に求められるのだろうと思います。
ナビゲーター:村木美貴氏
亀山市長はいかがですか。
パネリスト4:亀山紘氏(石巻市長)
今、被災地では、働く場の確保が求められています。これからのベッドタウン、あるいは環境に優しい都市を目指すために、ICT産業の誘致を進めています。そういったことで人材を優位にすることと同時に、働いていない若い女性ための働く場の確保も必要です。今、さまざまな方法で就職雇用の機会を作っている状況です。
ナビゲーター:村木美貴氏
それでは、最後にご登壇の方々に一言お願いできればと思います。
パネリスト4:亀山紘氏(石巻市長)
次のチャレンジとして、微細藻類を生かした科学技術の開発を進めています。次世代のエネルギー源にしていくつもりで取り組んでいます。そういう意味では、自然エネルギーだけでなく、海の小さな生き物にも将来を託していきたいと考えています。
パネリスト3:浜野四郎氏(横浜市 温暖化対策統括本部長)
みなとみらい地区の見直しをするため、少しずつ準備をはじめています。
みなとみらいは景観を含め、わかりやすい街だということで評価をいただいていますが、ここに地域エネルギーマネジメントシステムをどう組み合わせていくのかが課題です。トータルのマスタープランとして新たに売り出す。そのために、いろいろな民間企業の方々のアイディアや知恵、技術力を貸していただきたいと思っています。
パネリスト2:森雅志氏(富山市長)
環境未来都市の認定を受け、地熱発電や地下水の組み合わせなど、さまざまなことに取り組んでいかなければならないと思っています。
一つのヒントとしては、薬用植物があげられます。富山には製薬メーカーがたくさんあるので、大根や白菜を作るノウハウはあるが重くて作業ができないという高齢の方々にも働いてもらうことが可能になるのではないかと思っています。高齢者の雇用についてもどんどんアプローチしていかなければならないと思っています。
パネリスト1:松島克守氏(クリエイティブ・シティ・コンソーシアム副会長)
二子玉川には大変大きなポテンシャルがあります。これを最初にお話したようなビジョンにそって、世界に通用するような街にメイクリアルする。特にコンソーシアムのような民間があって、民間は結果を出すのがすべてですから、まずは結果を出したいというのを最後の言葉としたいと思います。
ナビゲーター:村木美貴氏
ありがとうございました。
計画からぶれずにやっていくこと、それを継続的に実行していくこと、その成功体験を積み重ねていくこと、家族が安心して住める街を作ること。これがクリエイティブ・シティを作っていくうえで一番基本的なことではないかと感じました。
本日はいろいろな意見が飛び交い、そこからまた勉強することが多かったと思います。皆様、本日は参加していただいて、本当にありがとうございました。
以上
プレゼンテーション資料ダウンロード
「二子玉川に創るクリエイティブシティ」 松島克守氏(クリエイティブ・ シティ・コンソーシアム副会長) |
CitySummit2012_二子玉川.pdf |
「コンパクトシティ戦略による富山型都市経営の構築」 森 雅志氏(富山市長) |
CitySummit2012_富山市.pdf |
「横浜市が実現する環境未来都市とスマートシティ」 浜野四郎氏(横浜市 温暖化対策統括本部長) |
CitySummit2012_横浜市.pdf |
「石巻市の挑戦 「世界の復興モデル都市」を目指して」 亀山 紘氏(石巻市長) |
CitySummit2012_石巻市.pdf |
※資料の閲覧・ご利用についてのご注意
- 資料の改変は禁止いたします。
- 資料を引用されるばあいは、それぞれ「クリエイティブ・シティ・コンソー シアム」、「富山市」、「横浜市」、「石巻市」からの出典であることを明記 ください。
Ustream放送(アーカイブ)
開催概要
日 時 | 2012年10月12日(金) 13:30~17:00 (※その後会員懇親会がございます) |
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場 所 | 渋谷ヒカリエホール ホールA 【会場へのアクセス】〒150-8510 東京都渋谷区渋谷2-21-1 渋谷ヒカリエ9F 東急田園都市線、東京メトロ副都心線「渋谷駅」15番出口直結。 東急東横線、JR線、東京メトロ銀座線、京王井の頭線「渋谷駅」と2F連絡通路で直結。 |
定 員 | 800名 |
参加費 | 無料 |
出演者 | <オープニング> 小宮山 宏氏(クリエイティブ・シティ・コンソーシアム会長) <基調講演> 安藤忠雄氏(建築家・東京大学名誉教授) 「魅力ある都市」 <プレゼンテーション> 「二子玉川に創るクリエイティブシティ」 松島克守氏(クリエイティブ・シティ・コンソーシアム副会長) 「コンパクトシティ戦略による富山型都市経営の構築」 森 雅志氏(富山市長) 「横浜市が実現する環境未来都市とスマートシティ」 浜野四郎氏(横浜市温暖化対策統括本部長) 「石巻市の挑戦 「世界の復興モデル都市」を目指して」 亀山 紘氏(石巻市長) <ナビゲーター> 村木美貴氏 (千葉大学大学院工学研究科建築・都市科学専攻准教授) |
主 催 | クリエイティブ・シティ・コンソーシアム |
後 援 | 経済産業省、国土交通省、プラチナ構想ネットワーク、東洋経済新報社 |
協 賛 | 株式会社イトーキ、株式会社岡村製作所、三機工業株式会社、セコム株式会社、日本アイ・ビー・エム株式会社、富士通株式会社、株式会社三菱総合研究所、株式会社LIXIL、富士フイルムイメージングシステムズ株式会社、 コクヨファニチャー株式会社、シスコシステムズ合同会社、株式会社日建設計、東京急行電鉄株式会社 |