ワーキンググループ活動報告会に続き、千葉大学大学院教授村木美貴先生の講演会を開催致しました。
18:00~
千葉大学大学院教授 村木美貴先生
「ロンドンを事例とした2020年以降のポストオリンピック・パラリンピックに向けた街づくり」
本日はこの2年ほど調査研究を行ってきましたロンドンオリンピックについてお話したいと思います。
先ず、オリンピック前後の、ロンドンの旅行客数についてですが、2012年は突出して旅行客が増えているわけではありませんが、外国人旅行者に関しては、増加しています。街のファンを増やし、来街者を増やすことは大きな経済効果につながり、ポストオリンピックの街の発展につながります。魅力的な街をつくるためにはどうしたらよいのか、以下4点についてお話ししたいと思います。
1. レガシー計画の背景
オリンピックで最も重要なのは、早い段階でのレガシー計画の策定です。オリンピックを契機にどういう街をつくるか、終わった後に街にどんな産物を残せるかを考え、計画スタート時から30年後50年後を見据えたグランドデザインを作らなくてはいけません。
ロンドンのレガシー計画においては、イーストロンドンと呼ばれる危険で貧困層が多く集まり、失業率が高く住宅事情の悪いエリアを再生していくことが必須でした。
シドニーはオリンピック終了の2年後にレガシー計画を考え始めたため、オリンピックで投資したものが上手く使えず、壊して作り直すという無駄をしてしまいました。ロンドンは、シドニーの失敗を繰り返さないため、レガシー計画をオリンピック開催決定より8年早い1997年からスタートさせ、そして、レガシー計画の上に競技場の建設計画や交通の計画を重ねていきました。
レガシー計画実現のためにロンドンが行ったことは、手続きの簡略化です。オリンピックパーク内において、それまで4つの行政体に分かれていた施設建設の計画、開発、許可権限を、それぞれの行政体から取り上げて、窓口を1本化し、複雑な許可システムを簡略化し、イーストロンドンの再生をスムーズに遂行できるようにしました。オリンピック終了後においても、2012年にポストオリンピックのためのレガシー会社(LLDC)が設立され、今でもオリンピックパークの中で新しい開発をする場合の申請許可システムは簡略化されています。
2.計画と開発との関係
メイン会場となったイーストロンドンエリアは、先にも述べた通り、失業率の高い住宅状況も劣悪なエリアでしたが、ここはテムズ川に近く、用地があり、セントラルアクティビティゾーンと呼ばれる業務地に比較的近く、北に上がれば飛行場もあり、都市再生の可能性は大いにあるエリアでもありました。このエリアの価値を上げることは、開発を行う上での起爆剤になり得ると考え、鉄道のアクセスを良くする、企業を誘致する、住宅の開発を高めていくことを目指した、都市再生のための戦略方針を2009年に策定し、(窓口を1本化した)4つの行政体・中央政府・市長が一緒になってフレームワークを作り、ロンドンが抱えている問題解決の協議が始まりました。
ロンドンオリンピックの大会運営は、中央政府・英国オリンピック協会・ロンドン市が中心となり、その下に大会を運営する組織と許可権限を持つ組織が付きました。都市再生のために、ロンドン市の経済再生を行う組織体が土地の購入や開発のための資金調達を行い開発地をまとめ、大会運営と土地利用と都市再生の組織体が関係して、ロンドンオリンピック全体の都市再生計画を作っていきました。つまり、計画と主体者との関係が大変重要になるわけです。
また、オリンピックのマスタープランとレガシー計画は相互性が必要です。なぜならば、先に述べたように、オリンピック後にレガシー計画を立てたならば手遅れになるからです。
3.低炭素型開発とエネルギーとの関係
ロンドンの低炭素型市街地形成実現のため、電力に序列をつけ3段階で検討していきました。
① 省エネ
② コジェネ導入
③ 再生可能エネルギーを考える
また、熱のネットワークの構築と接続を行い、オリンピックパークの中は全て地域冷暖房になっています。最も低炭素なオリンピック実現のため、当初からオリンピックパーク内ではCO2排出量を50%削減することを求められていました。オリンピックパークは2つのエネルギーセンターからの熱供給しており、エネルギーセンターを経営する熱供給事業者は民間企業で、早く投資の回収するため、熱導管をオリンピックセンターの外にも出して、供給のエリアがフレキシブルに伸びるようにするなどの施策を行いました。
4.アクセス
街中いたるところに案内板を設置し、案内板には目的地までの徒歩到達時間がかかれており、地下鉄、国鉄、船すべて統一デザインにしてわかりやすくしました。また、地下鉄の延伸、地上電車の走行、船の波止場増設、ハンディキャップパーソンへの対応、バスの路線増設、歩行者道・自転車道の整備などを行い、オリンピック関係での交通整備が大きく進みました。
アクセスをよくすることも、ロンドンを快適に過ごす重要な要素です。
5.商業施設での対応
BID(business improvement district)
街の運営、管理のために、税金のように地権者からお金を徴収し、地域の清掃活動や安全対策を行うこと。
最初に述べた通り、オリンピック期間中、海外からの訪問者にロンドンが楽しく快適な街だと印象付け、リピーターを増やすことは、外貨獲得につながり、大きな経済効果をもたらします。そこで、ロンドンの37の地域ではBIDを導入し、快適に過ごせるための施策に取り組みました。オリンピック期間中は、特定の道路が閉鎖される、それにより商品の搬入ができなくなる、交通の混雑により従業員の出勤が困難になるなど、様々な事態が起きり得ますので、それぞれのBIDでそれら情報を集め、サイトにアップし、対策を時間軸で考えていきました。400日前までにすること、300日前までにすること、200日前までにすること、100日前までにすることをまとめ、実践したことにより、オリンピック期間中も快適に過ごすことができたのです。また、ストリート案内人の配置し、旅行客へのおもてなし対応もしました。
オリンピックは開催までのリミットが決まっていますので、限られた時間の中で、何ができるのか考え、なされていなかったことを遂行することが重要ですし、街でのおもてなし対応も重要です。
6.終わりに
ロンドンから学べること
・ レガシー計画~ポストオリンピックを見据えた街づくりの必要性
・ オリンピックのためだけに何かを作るのはダメ。
・ オリンピックは完成までのリミットが決まっているので、限られた時間の中で、何ができるのか考え、これまでできていなかったことを推進する。
→2020年までに東京でできることを考えてみましょう。
・ つくりこむだけではなく地元を活かすこと。日本の場合は、今の価値をどうやって高めていくか、日本ならではのよさのアピールが必要。インバウンドだけではなく、日本全国から人を集めることも必要。
<質疑応答>
QUE:ウェストフィールドの商業施設が、オリンピック前にオープンしていますが、民間資本を呼び込むためのインセンティブはありましたか?
Ans:特にインセンティブはありませんでしたが、通常イギリスでは開発の申請をしてから時間がかかるものですが、時短したことが1つのインセンティブだったと思います。
Que.:イーストロンドン再生計画の中の住宅問題についてお聞かせください。アメリカのように行政が賃料不足分を負担することがあったのでしょうか?また教育水準を上げるために、エリアの中で高等教育機関をつくるなどありましたか?
Ans:所得の低い人達はNPOが用意した住宅に入り、不足分を公共が支払いました。この点はアメリカと同じです。但し、公共が払うためのお金を開発負担として民間が支払いました。2点目、商業開発をするためには雇用のためのトレーニングを行う義務を課したので、地元の人が雇用にアクセスできるような土壌を作りました。
Que:東京の2020年に向けてのレガシー計画でよいと思われる点、よくないと思われる点、今なら間に合う点をおしえてください。
Ans:エネルギーやインフラに関することは先にやっておかないと間に合わない点が気になります。東京がサスティナブルな都市になるためにはどうすべきかをもっと仕込まなくてはいけないと思います。
スタジアム計画1つをとっても、逆算すればいつまでにやっておかなければならないかはわかるはずです。
Que:ロンドンを参考にして、プラチナトライアングルと呼ばれる東京の西エリアで期待していることをお聞かせください。また、本日はロンドンの公の部分が力を持って都市再生をしていったというお話でしたが、コンソーシアムは民間企業の集まりですので、そのよさを生かして、民間企業が出せる新しい価値についてお聞かせください。
Ans:イギリスは本来中央集権国家のトップダウン型ですが、オリンピックパークレガシー計画においては、公共出身者が少ししかなく、民間出身のできる人達によって遂行されました。民間主体という点ではコンソーシアムも同じです。但し、そこに公共のサポートは必要ですし、計画遂行の強い意思表明には公共の力が必要だと感じています。
19:00~
セミナー終了後の交流会
皆様、どうもありがとうございました。