地方視察会レポート
地方視察会を実施、徳島県神山町~美波町へ視察に行ってきました。
日 程 | 2018年2月15日(木)~2月16日(金) |
参加者 | 16名 |
目的地 | 徳島県のサテライトオフィス2大集積地:神山町 美波町 |
【視察趣旨】
働き方の多様化、子育て支援、移動時間の削減による業務効率化、BCP拠点の確保、心地よい職場環境の整備などの理由から、新たな職場機能としてサテライトオフィスに注目が集まっています。ところが、本社とサテライトオフィスとのコミュニケーションの取り方や機能分け、人材採用、維持コスト、勤務実態、周辺産業への影響、地元コミュニティとの関わり方など、解決すべき課題もたくさんあります。
そこで今回、課題を解決するにはどうしたらよいか、今後の新たな働き方の可能性、プラチナトライアングルおよび多摩川流域への展開の可能性を探るため、サテライトオフィスの集積地として有名な徳島県神山町・美波町へ視察に行ってきました。
【視察行程】
[ 1日目 ]
- NPO法人グリーンバレー 理事長 大南さん講話・情報交換
- Sansan神山ラボ
- えんがわオフィス
- サテライトオフィスコンプレックス 徳島県庁講話・情報交換
徳島市内に戻り懇親会
[ 2日目 ]
- 鈴木商店 美雲屋オフィス
- サイファーテック 美波Lab
- あわえ(戎邸、初音湯)
- ミナミマリンラボ 美波町とあわえの取り組みディスカッション
徳島市内に戻り解散、自由視察
【レポート】
[ 1日目 ]
1.NPO法人グリーンバレー
http://www.in-kamiyama.jp/npo-gv/
最初の視察地はNPO法人グリーンバレー、神山町のキープレーヤーであり、カリスマ的存在、グリーンバレー代表理事の大南信也さんを訪ね、グリーンバレーと神山町の歴史、成功の道のりについてお話を伺ってきました。
設立 | 2004年 |
代表理事 | 大南 信也氏(一般社団法人神山つなぐ公社代表) |
活動内容 | 神山の情報発信、地域経済、文化の活性化、アーティストの製作支援、神山への移住支援、就業・起業支援、サテライトオフィス誘致 |
大南さんの生まれは神山町、高校は徳島市内、大学は東京、大学院はアメリカへ渡り、スタンフォード大学大学院を修了後、神山町へ戻り実家の土木建設業を継いだそうです。大南さん曰く、「神山を客観的にみる機会が多かった」
サテライトオフィス誘致となった最初のきっかけは、1927年に日米親善のためにアメリカから贈られた青い目の人形1体が神山町の小学校に残っていることが判明したこと、1991年に「アリス」と呼ばれるその人形を、アメリカに里帰りさせることになり、それがきっかけで神山町国際交流協会が発足し、その後、グリーンバレーの前身となる「国際文化村委員会」を設立、その後「アーティスト・イン・レジデンス」、「ワーク・イン・レジデンス」へつながっていきました。
大南さんのカリスマ性を感じるご講話、貴重なお話を伺うことができました。
グリーンバレーの施策
- アーティスト イン レジデンス
世界からトップクリエイターを招待。
神山での制作活動を支援する形で移住者を募る。 - ワークインレジデンス
まちの将来にとって必要と思われる起業家を逆指名。
「オフィス イン神山」という空家改修PJで活動場所も提供。 - サテライトオフィス誘致
ITや映像、デザインなどクリエイティブな企業を誘致。
働く場所を選ばない人へ移住も促すことも併せて行う。 - 神山バレー サテライトオフィス コンプレックス
コワーキングスペースとシェアオフィス、Fabスペースが併設
ビジネスコミュニティの創出に寄与。 - 神山塾
神山町で働く後継人材の育成事業。
クリエイター系人材を多数輩出。
- 必要な「人」を集めることで、更なる集積につなげた
- トップクリエイターや企業の集積が新たな人材誘致を促進
- 2011年、転入者数が転出者数を上回る
2.Sansan神山ラボ
https://jp.corp-sansan.com/blog/kamiyama
設置企業 | 株式会社Sansan |
企業概要 | 名刺管理サービスを展開するIT企業 |
地元地権者の古民家をグリーンバレーが賃借し、Sansanに転貸、常駐者2名(開発系エンジニア)のサテライトオフィスです。
スカイプやチャットで本社および各支社と常時コミュニケーションを密にとっているため、社内のコミュニケーション不足は全くなく、逆に、リモートワークに慣れて業務効率が上がり、リモートワークのノウハウの蓄積が支社展開を進め、採用力の強化につながるなど、プラスの効果が大きいそうです。
3.えんがわオフィス(プラットイーズ)
設置企業 | 株式会社プラットイーズ |
企業概要 | 放送業務のアウトソーシングサービス |
築90年の古民家をリノベーションしたオフィスがおしゃれ、現地採用が多く、半数以上が現地出身者、東京のバックアップオフィスとして、蔵をリノベしたサーバールームも設置されていました。ここでは本社との機能のすみわけは特段存在しないそうです。えんがわの前での交流により、地元の人からの理解が深まったことが、神山町のオフィス誘致の機運が高まるきっかけになったとか。とても温かみのあるオフィスでした。
4.神山町バレーサテライトオフィスコンプレックス
http://www.in-kamiyama.jp/kvsoc/
神山バレー・サテライトオフィス・コンプレックス(KVSOC)は、「成長するオフィス」。閉鎖された元縫製工場(619平方メートル)を改修したコワーキングスペース、設備投資を総務省が実施、運営はグリーンバレーが行っています。Fabスペース、シェアサテライトオフィスとして、徳島県庁、阿波銀行など16の事業者が入居、ビジネスコミュニティの場が醸成されていました。
<徳島県庁サテライトオフィス>
KVSOCに徳島県庁が入居していました。入居の目的は、自ら現地に入りテレワークの実態を把握するためで、本庁との連絡はモニターを通してタイムリーに行っており、県庁の若手職員による研修先としても利用しています。意思決定決裁は、システムで対応し、本庁へ出向くのは押印時のみとのことでした。
[ 2日目 ]
1.美雲屋
https://www.suzukishouten.co.jp/mikumoya/index.html
設置企業 | 株式会社鈴木商店 |
企業概要 | クラウドコンピューティング関連のシステム開発 |
大阪に本社がある、クラウドコンピューティング関連のシステム開発を行っている株式会社鈴木商店のサテライトオフィスです。「クラウド屋」として町の役割を担いたいと考え、「美波町」と「クラウド=雲」をかけて「美雲屋」と命名しました。
築150年の古民家をオーナーから賃借しリノベーション、保守系のエンジニアが常駐しています。
オフィスとしての利用以外に、地域住民とのコミュニティスペースとして利用があるそうですが、定住前提のサテライトオフィスでは、地域コミュニティに溶け込むことが重要なため、様々なイベントを催し、地域の仲間入りをしているそうです。
2.美波Lab
https://www.cyphertec.co.jp/minami/index.html
設置企業 | 株式会社サイファーテック |
企業概要 | デジタルデータ保護を行うIT企業 |
県の老人ホームを内装リノベし、開発系エンジニアが5人常駐しています。宿泊機能は同じ建物内に併設されています。
エンジニアの採用力強化のため、「半IT×半○○」をコンセプトにしたことにより、アウトドアを楽しみたいエンジニアが応募、採用数は3倍に増加したそうです。ちなみにこの日案内してくださったエンジニアさんのテーマは「半IT×半狩猟」、猟を行う超アウトドア派の女性エンジニアさんでした。
3.初音湯
設置企業 | 株式会社あわえ |
企業概要 | 美波町の活性化を図る サテライトオフィス誘致、人材育成 |
国と美波町とあわえで1/3ずつ設備投資を行い、築古銭湯をリノベーション、浴槽跡が掘りごたつ式の大きな作業テーブルに変身するなど、何ともお洒落なオフィスでした。
美波町に来た最は建物を貸してもらうことができず、美雲屋と同じく、地域のコミュニティに溶け込むことで、地元から受け入れられ、会社設立から半年後にオフィスを構えることができたそうです。
「地域での拠点づくりにおいては、地元との関係構築が必要」
4.戎邸
設置企業 | 株式会社あわえ |
機能 | シェアサテライトオフィス |
こちらもあわえさんの施設、美波町にはオフィス用途で利用できる物件が減少したため、美波町にオフィスを設置したい企業がお試し利用できる施設としてオープン、簡易的な宿泊所も2階に併設しており、国と県のデュアルスクール※の認定も受けています。サテライトオフィスのお試し拠点を提供することでさらなる開設促進・拡大を図っています。
※SOで働きたい人が子供を連れて長期間滞在し、近隣小学校で授業を受けることが出来る制度
5.美波町役場職員とあわえディスカッション
最後に、ミナミマリンラボ会議室をお借りして、美波町役場職員とあわえディスカッションを行いました。
<神山町との違い>
- 神山町はトップクリエイターによる展開、美波町は地域課題解決型ビジネスをフックにした展開。
<大企業のサテライトオフィスのあり方>
- 地方においては、地域との関係性を構築するのは必須。
- 持続可能なSOのために、地域課題解決型のサービスを展開する。
- 企業内においては、働き方改革をきっかけに導入し、地域課題解決を行う(SDGs)
【まとめ】
2日間の視察で、現地関係者との情報交換を行い、本社とサテライトオフィスのコミュニケーションの取り方や機能分け、採用、勤務実態、地元コミュニティとの関わり方など、内容の濃いヒアリングを行うことができました。1日目の視察を終えて、神山町が成功したのは、神山町のカリスマ的存在のグリーンバレー理事長 大南さんの存在に因るところが大きく、そのため、他のエリアで同様の展開をするのは難しいのではないか?と思われましたが、2日目に訪れた美波町の「あわえ」山下さんは、かつて大南さんのコミュニティにいたことがあり、その経験を基に、大南さんの実績を水平展開する形で美波町で活動しており、展開方法や形態は異なるものの、大南さんのコミュニティで経験を積み、且つ資質のある人であれば、別のエリアで展開することは不可能ではないと感じました。
神山町と美波町の違いとして、神山町は各セクターのトップギアの人達が集まり、その人達が更にトップギアの人達を呼び込み、よいブランディングで展開しているのに対し、美波町の鈴木商店やサイファーテックは、地域の課題解決をするために、言ってみればSDGsを体現するような形で事業展開をしていました。エリアによるフィロソフィの違いを感じました。
【付録】
神山町の景色・街並み
WEEK神山
神山町バレーサテライトオフィスコンプレックスの向かいにある宿泊施設「WEEK神山」今回は泊ることが叶いませんでしたが、川に面したとても素敵な宿泊施設でした。
美波町の景色・街並み