1月26日、二子玉川の玉川高島屋アレーナホールにて、コンソーシアム主催の「クリエイティブ・シティ・フォーラム2011」が開催されました。
『創造経済の時代〜変化する都市・ワーク・ライフと二子玉川の可能性』のテーマのもと、有識者、会員企業、地域住民など多数が集まり、経済・社会が成熟化した日本において、新たな価値を生み出す「クリエイティビティ」を高めるために、未来に向けた街のあり方や、個人の仕事・学び・暮らしの調和やライフスタイルの向上について、様々な議論が交わされました。
基調講演やグランドデザインの公開討論を通じて、コンソーシアムの趣旨や理念、問題意識を伝えるとともに、多様な分野の有識者の知がつながり、「未来に向けた活動が二子玉川で起きつつある」という期待感を残し、フォーラムは盛会のうちに終了いたしました。
本フォーラムの模様はインターネットでライブ中継されましたが、来場者は計約230名(メディア関係者17名を含む)にのぼりました。当日の概要は下記の通りです。
小宮山会長挨拶
冒頭の小宮山会長による挨拶は、「二子玉川を世界で最もクリエイティブな街にしたい」、「市民の力で日本を元気にしたい」という鼓舞激励で始まりました。
小宮山会長が主導されている「プラチナ構想ネットワーク」には、全国100以上の自治体が参加し、『プラチナシティ』(エコ、高齢者を含めてすべての人が参加できる、成長し続ける、経済的にアクティブで雇用が十分にある)の実現を目標としています。
都会でありながら多摩川の自然に恵まれ、教育・経済レベルが高い住民が集まる二子玉川は、会長いわくプラチナシティの"優等生"と位置づけられます。コンソーシアムの活動は、法人52社の賛同を得て、市民の注目も集めており、「世界のモデルになるという意識と気概をもって前進していきたい」との力強いメッセージが発信されました。
金先生講演 「創造社会の到来と都市の未来」
金先生は、「創造性」を「新しく、社会にとって価値があること」と定義されています。経済システムは、農業経済から工業経済、情報経済、そして「創造経済」へと変遷し、今後は社会に新たな価値を産み出す人が経済を牽引していくと考えられます。このシステム移行の背景には、グローバル競争(ネットによる社会のフラット化、BRICsの脅威、モノづくりのガラパゴス化等)と、豊かさによるニーズの多様化(品質・機能からデザイン・ブランド等付加価値重視)により、個人の創造的価値を引き出す必要性が高まっていることが挙げられます。
これからの社会は、創造性を発揮して社会的価値(「感性」「体験」「共感」など)を生むことが重視されます。それは、金先生の言葉によれば、「材料→レシピ」「左脳→右脳」「プラモデル社会→(個性が生きる)レゴブロック社会」の比重が高まるということです。品質が高いモノを作れば売れる時代ではなく、アイディアや表現をデザインして'売れるストーリー'を作っていかなければならない時代になっているのです。
リチャード・フロリダは、創造都市の3つの"T"として、「テクノロジー」「タレント」「多様性に対する寛容さ(トレランス)」を挙げました。15世紀のルネサンスは、メディチ家がフィレンツェを「交差点」として創造的人材が集まり、インタラクションが起きたことによって創造性が一気に開花した時代と言われています。同様に、二子玉川を『知の交差点』に、という非常に印象的なメッセージをいただきました。
松島副会長 「クリエイティブ・シティ・コンソーシアムの目指す未来」
パネルディスカッションの導入として、松島副会長よりグランドデザインの検討経過についてご紹介いただきました。コンソーシアムの構想の背景にある考え方として、産業より生活の質の追求、ソーシャルビジネスの創出、若者のモチベーション向上による少子高齢化への対応などが挙げられました。その理念の具体化のために、コンソーシアムでは多様な人材が集まってフュージョンを起こす、新しいビジネス(特に社会的事業)を産み出すことを志向しています。
二子玉川が目指す街は、丸の内や大手町など旧来のビジネス街ではなく、生活に根ざし、東京の旨みを集約した街であり、そのために個人と企業、地元、自治体など関係者がビジョンを共有してコラボレーションを推進したいと考えています。複数のプロジェクトがすでに始動しており、未来を見据えて社会の課題を解決しながらビジネスにつなげていくための社会実験を行う場が形成されつつあります。
一企業内で新規事業を成功させるには限界があります。企業の壁を超えるのは容易ではありませんが、コンソーシアムでは『オープンイノベーション』をキーワードに、クリエイティブな個人が、組織に縛られずにクリエイティビティを発揮できる場になるように、個人と企業の交流をデザインし、「ソーシャルイノベーション」を起こすことを志向します。才能を集め、ワイガヤでアイディアをプランニングし、トライアルする(企業単独ではできない社会実験を行う)ことで成果を生むことが狙いです。
最後に、会場に向けてワーキンググループ(WG)への参加の呼びかけがありました。
パネルディスカッション
松島副会長をモデレーターに、石戸氏×向谷氏×金先生によるディスカッションが行われました。ツイッターや会場来場者からの参加もあり、二子玉川を魅力的な「場」にしていくために議論が交わされました。パネリストの方々の発言要旨は下記の通りです。
NPO法人CANVASで子どもの創造性を高めるワークショップを主宰する石戸氏は、CANVASという「場(プラットフォーム)」を通じて未来のクリエイティブな人材を育成しています。「5月5日に街を子どもに全面開放する」というアイディアなど、二子玉川を「子供特区」に、との提案がなされました。
石戸氏は、日頃の活動を通じて、情報化社会とソーシャルエンタープライズは親和性があると認識され、社会デザインに誰でも参加できる時代になってきたと感じられています。関係者が知恵を持ち寄って連携し、多くの人が共感できる、新しい未来の街づくりを考えていきたい、とのメッセージを頂きました。
デジタル教科書などITと教育についてのご経験から、創造性を高めるために、新しい技術やITツールを活用し、創造活動の敷居を下げることの効果について指摘されました。
才能を集める方法については、幼児のクリエイティブ教育で有名なイタリアのレッジョエミリアを例にとり(小さい街だが視察で世界中から人が集まっている)、「あるテーマのメッカになることによって人が集まり、化学反応が生まれる」とのご意見でした。
パネリスト2:向谷実氏
二子玉川出身の音楽家で「向谷倶楽部」を主宰する向谷氏は、ソーシャルメディアやITを通じてコミュニケーションの幅が広がることを指摘されました。メディアの発達によって情報は「発信対受信」という上下関係ではなくなり、受け取る側が情報を拡散することで波及効果が高まっていくことに注目し、音楽活動においても「制作過程を可視化して皆の意見を入れる」ことを重視されています。(向谷倶楽部では、リスナーとともに音楽をつくり、レコーディングの4時間後には公開するという「産直型音楽配信」をソーシャルなビジネスモデルとして実践。)
クリエイターやアーティストも「拡散」による社会的発信ができる時代になったが、ソーシャルメディアを活用するには、可視化に耐えるコンテンツでなければならず、そこにはソーシャルな目利きが働く、と指摘されました。二子玉川の差別化のためには、「厳しい競争で批評される場」と「先進さ」が共存し、それに耐えうるもののみからなる「ニコタマブランド」を産み出すことが必要との助言をいただきました。
コンソーシアムに対しては、「クリエイティブ」の的を絞り、二子玉川に何ができるのか(人を誘致する、システムを作る、場を作る、ブランドを作る)をより具体化していくべき、との提案がありました。才能のある人は意図的に集めるものではなく、自発的に集まった人たちの化学反応を待つしかなく、それには「ITデリカシー」のある環境を整え、適度な緊張感がある、何かやってみたいと思わせる、「場が産み出す力」をつくることが重要である、との示唆をいただきました。
パネリスト3:金正勲氏
創造社会の概念論について講演された金先生からは、二子玉川は「生活感にあふれた温かみを感じる街、貨幣に還元できない価値を感じる」とのコメントを頂きました。
街づくりには、「ビジョン」「戦略性」「実践」が一貫性をもって実行されるとともに、プロセスに市民が参加し一緒に街をつくっていくことが重要と指摘されました。「供給側(行政・企業)が脚本を用意して市民を聴衆として招く」のではなく、市民も脚本に参加してコラボレーションし、お互いが主役としてインタラクションしながら一つの「場」を作っていくことが理想であり、「市民が場の形成に貢献することによって場が豊かに発展し、場に対する愛着が生まれる」、「人が場を育み、場によって育まれる」という良い循環構造をつくるということが、街にとって重要な視点との助言をいただきました。
場に才能を集める上での課題は、主体が実践を通じて創造的になることであり、それが結果として人を惹き付ける、とのご意見でした。
また金先生は、かつて「日本は未来」だったのに、現在の日本は自信を失っていることを憂え、本来創造性にあふれている子どもたちが、社会が決めたルールや秩序によって創造性を失う可能性があることを懸念されています。
ビジネスとイノベーションは、持続可能な体系があるかどうかが成否の鍵であり、コンソーシアムへの期待として、二子玉川からスタートして大きなストーリーの起点となる気概をもって活動してほしい、との激励を頂きました。
松島副会長からは最後に、コンソーシアムは「ビジネス」を意識して活動し、ITを駆使しつつ、社会課題とビジネスを両立させていく、という方針のメッセージが発信されました。「二子玉川では面白いことができそうだ」と思わせる環境をつくり、ここでしかできないことをしようとしている、ということが会場に向けて伝えられ、ディスカッションは終了しました。
すでに組成し活動を開始している7つ(フューチャーワーク、スマートシティ、ネクストメディア、位置情報サービス、スマートライフ、タッチ・コミュニティ、次世代環境 ※グランドデザインについては副会長より説明されたため除外)のWGリーダーより、多岐にわたるテーマと具体的な活動内容について、それぞれ紹介がありました。
特に、フューチャーワークWGからは、4月に二子玉川ライズ8階にコンソーシアムの活動拠点としてオープンする予定の「カタリスト(仮称)」について、場のコンセプトやイメージが披露されました。