9月2日(金)、クリエイティブ・シティ・コンソーシアム(以下「コンソーシアム」)の活動拠点"カタリストBA"にて、「設立1周年記念シンポジウム」が開催されました。
第1部は、『クリエイティブ時代の日本の未来を考える』と題して、小宮山宏会長と慶應義塾大学特任准教授ジョン・キム氏の特別対談、第2部では『都市×農×食を考える』をテーマに、涌井雅之東京都市大学教授による基調講演、およびパネルディスカッションが行われました。
3月11日の東日本大震災を機に、農業や食、都市のあり方について人々の意識や価値観が変化してきていることを踏まえ、今後日本がどのような発展を目指していくべきか、また、そのためのアイデアを二子玉川からどのように発信していくかについて、登壇者それぞれの視点で意見が述べられ議論が交わされ、来場した127名の参加者の方々も熱心に聞き入っていました。
シンポジウム終了後に開かれたレセプションでは、和やかな雰囲気の中、参加者と登壇者による盛んな交流が見られました。
シンポジウムの模様は、Ustreamインターネットにてライブ中継(アーカイブを公開中 http://ustre.am/CphU)され、また、会場には富士フイルムイメージテック株式会社の協力により、twitterに投稿された"つぶやき"がランダムに表示される「ロカモダ」システムを導入し、参加者、スタッフのリアルタイムな感想も同時に楽しむことができました。
当日の概要は下記の通りです。
開会ご挨拶
小宮山宏 クリエイティブ・シティ・コンソーシアム会長
コンソーシアムが設立から1周年を迎え、こうしたシンポジウムを開くことができ大変有り難く思っております。コンソーシアムはあらゆる分野で活躍されている様々な肩書の方々が集り、新しいクリエイティブを生みフリクションを起こす、日本には数少ない理想的な場所です。多摩川の清流を臨むこの"カタリストBA"で、今日も良い異質な人達による充実した議論が行われることを期待しています。
来賓ご挨拶
秋山由美子 世田谷区副区長
3月の大震災によって改めて気づかされた、地域の絆や助け合いの大切さを区の活動においても再認識し、いろいろなグループ活動を通じて生まれる、民・官相互の顔の見える関係を、活力・魅力ある世田谷区づくりに生かしていきたいと考えています。また、コンソーシアムから生まれたアイデア、知恵を学び、活動を支援していきたいと思っております。
秋山副区長は、過日カタリストBAで行われた「プラチナ構想」実現に向けた「プラチナ構想スクール」にも参加されており、コンソーシアムの活動に大きな期待を寄せられています。
第1部『クリエイティブ時代の日本の未来を考える』
特別対談 小宮山会長×ジョン・キム氏
対談は、次の3つの論点について意見を述べ合う形で進められました。
論点1:3.11以降の日本の課題
論点2:カタリストBAへの期待
論点3:都市がクリエイティビティに果たす役割
まず、小宮山会長から3.11以降の日本の課題について、「すでに先進国の仲間入りをしている日本が、変わらず他の国の真似をしようとしていることが問題であり、日本はすでに、自分たちの未来を自分たちで決めていく時代にきています。今、プラチナ社会(エコロジカルで、高齢者が参加し、人が成長し続ける社会を民力でつくる21世紀のモデル社会)を東北につくることができるかどうかのチャンス。そこから日本全体が前に進んでいけるかどうかがポイントになっています」と話されました。
続いてキム氏は、日本、創造性、SNS革命、資本主義という切り口で、「日本ほど安全・便利で、人々の間に信頼が築かれている国は他にありません。効率性から創造性を重視したモノづくり、競争から共創へと西洋的な資本主義を乗り越え、日本独自の成熟した新しい資本主義を切り拓く時が来ていると思います」と、日本の現状と未来についての思いを語られました。
その後、「社会における創造性の意味と必要性」、「知識の構造化におけるコンソーシアムの役割」などについて、時間枠いっぱいを使って意見交換がなされました。
最後に、キム氏から「異質なものがぶつかり合う交差点のような"カタリストBA"には、参加者の意識の高さが不可欠であり、いかにそうした人材を集めるかの工夫が必要です」とのご意見をいただき、小宮山会長は「全員が一緒に進んでいくには、早い段階でビジョンを定義し、具体論に落とし込む必要があります」と対談を締めくくりました。
第2部『都市×農×食を考える』
基調講演 東京都市大学教授 涌井雅之氏
涌井氏は、造園家として多摩田園都市やハウステンボス、東急宮古島リゾートなど数多くのランドスケープ計画・デザインを手掛けるかたわら、国連生物多様性委員会の委員長代行にも就任されています。そうしたご経験を通じた観点から、『TOWN ─ country 環境革命の時代に命を見つめ豊かさを深める』と題した講演をしていただきました。
「現在、生物資源は地球一つでは足りない状況になっており、人間も多様な生物の一つであることを明確に意識しなければなりません。近年、人々は心の豊かさを求めるようになり、モノを売る時代から自分らしく生きるためのライフスタイルを売る時代に変わってきています。それは必然的な環境革命の始まりです。
日本は元々、本物の田園都市を作り上げる空間的倫理観を持ち、自然と共生する知恵が個人の生活にも浸透していました。産業革命以降の都市は経済生産を目的とした存在であり、機械部品のように効率性を重視してきました。
高齢化社会において議論すべきことは、"加齢と老化の違い"を認識し、いかに健康で元気な老後を送るかです。加齢と老化は、環境・日常習慣・モチベーションによって決まります。環境ストレスから心と体を守り老化を防ぐ手立てとして、農業は非常に有効であると考えられます。
震災で明らかになったように、都市は農村なくしては成立しないという事実としっかり向き合うべきです。都市の矛盾から人間的な生活に立ち戻るために、農業を真正面から見極め、自立型で持続的な都市をつくっていかなければなりません。利益結合型社会から、絆が感じられる地縁結合型社会をどうつくっていくかを考え、自然との共生を取り戻し、農空間を再評価することが、日本にとって重要な都市再生の道につながると思っています」
パネルディスカッション
引き続き、澁澤寿一氏をモデレーターに、小池聡氏×平賀達也氏×長野麻子氏×涌井雅之氏による多様な個性がぶつかり合った、熱意溢れるディスカッションが行われました。澁澤氏による導入、およびパネリストの方々の発言要旨は下記の通りです。
モデレーター:澁澤寿一氏(農山村支援センター副代表/農学博士)
以前、江戸時代から1人の餓死者も出していない集落を見に行きました。秋田県の岩見川上流にあるこの集落では33カ所の森を所有し、エネルギー資源である薪を確保するため、森を順に伐採しています。伐採の翌年にはワラビが豊富に育ち、数年後切り株にはキノコが生え、34年経つと木はまた立派に成長する。ここでは、住民の誰もがこうした自然のサイクルを五感で知り、山を利用した持続可能な生活を実現しています。長野県にある集落では、厳しい自然環境の中にも生活の喜びやモラル、絆といった価値観を見出し、知識や文化を作り上げています。このように自然を利用する持続可能なシステムに加えて、心の中の環境を整えることが環境問題の解決へとつながることに興味を持ち研究をしてきました。現在は、高校生による"聞き書き"を行っています。お年寄りに話を聞き、自然との付き合い方を学び、絆を取り戻し、次世代につなげていくことを目指して今後もこの活動を続けていきます。
パネリスト1:小池聡氏(グリーンインフィニティ株式会社代表)
小池氏は、IT企業経営やアジアのベンチャー支援のかたわら、週末は栃木県那須野ヶ原にて、農薬・化学肥料を一切使わない有機にこだわったイタリア野菜の栽培をされています。
「震災により生じた放射能汚染という出口の見えない問題は、農業を見直すきっかけになっていると思います。50歳のとき何か違うことを始めたいと思い、それまで輸入物しかなかったイタリア野菜の栽培を始めましたが、興味のあった農業をやってみたことで自分の中に問題意識を持つことができました。
"自産自消"の仕組み作りを目指して、日々新たな問題と向き合い取り組んでいる中で、都市に農業を伝える必要性を感じました。那須から持ってきた、土が付いたままの野菜を都会で販売することで、ニンジンが土の中で育つことを知らない子供たちの、新しい発見に喜ぶ顔が見られたり、那須を近くに感じられ、農業と都市が少しつながったような気がしています。身近なところにきっかけを作ると共感が生まれます。例えばベランダや庭で野菜を育てるなど、個人レベルでもまず何か始めてみることが大事だと思います」
パネリスト2:平賀達也氏(株式会社ランドスケープ・プラス代表)
国土交通大臣賞を受賞した西鹿児島駅前広場や、飯田橋アイガーデンエア、秋田県の新庁舎などを手掛けられている平賀氏は、「生命のつながりが見えない都市では気づきませんが、農村ではつながりが見え、人は自然に生かされていることが良くわかります。良い土壌を持った日本に、震災によって起きた汚染という難しい問題に対しては、その場所自体が持つ浄化する力での解決策を見つけ出さなければなりません。
これからは産業工学的視点から、生命科学的な社会に転換していかざるを得ないでしょう。生命科学にはわからないことが多く伝えづらいものですが、学問である必要はなく、人の生き方や環境を大事にする姿勢、つまり文化・歴史を次の世代に伝えていくことが必要だと思います。二子玉川の二次開発ではエコミュージアムをテーマに、多摩川エリアの環境を凝縮・再現した屋上緑化を施し、建物全体には最先端の環境技術を駆使します。このように、自然環境と環境技術の両方を子供たち、次の世代に見せることが大切だと思います」
パネリスト3:長野麻子氏(NPO法人ものづくり生命文明機構常任幹事)
長野氏は、農林水産省に勤務するかたわら、自然に学ぶ生命文明を日本から発信すべく設立されたNPO法人や、"銀座ミツバチプロジェクト"の活動にも参加されています。
「銀座ミツバチプロジェクトでは、ハチを通じて都会の中にコミュニティが形成されました。そこから人間と自然の共生、都会と農村がつながることの大切さを感じ、年2回"ファーム・エイド銀座"というイベントを開催しています。そこでは、農家の方が直接売りに来て、それを買った都会の人が稲刈りや搾乳しに行ったりと、農家と都会に暮らす人が直接つながり、都市と農業の間にサポート関係が生まれました。震災のときも顔が見える関係があったことで、国の支援が届く前に、私たちから物資を届けサポートすることができました。このように日本全国の都市と農村が網の目のようにつながれば、都会では食物を作ることができなくでも、農業とつながることで豊かに生きられる、支え合う関係を実感できます。
食は大切で、美味しくて楽しい体験です。そのことを核に"農"を考え、"農"によって生かされていることを考えていければ、国の補助がなくても農業を支えられるのではないでしょうか」
パネリスト4:涌井雅之氏(東京都市大学教授)
「日本では、社会的に共有している農作物に対して価格を転嫁せず、共通の恵みである食料を安く購入しています。震災で食の安全への意識が変わった今、赤字の農業を救うためにも、社会制度の中で"農"をどのように支えていくか真剣に考えるべきだと思います。農林水産業に従事している人たちは皆、その土地に住み続けるための手段として営んでいます。ですから、安心して住み続けられる社会システムの構築が必要です。イギリスではすでに、その土地に住むことが環境にどの程度の貢献になっているか。産業としての農業に従事することの有利・不利のベクトルから所得保障の基準を決めており、日本でも社会全体として、農的暮らしの価値を見直す場面にきています。
老後にペットを飼ったり、園芸にいそしむ人が多いのは、人の役に立っているという実感が元気の源になるからです。老化を知らない社会を構築していく上で有益な農業に、人々をどう取り込むかを考えることが重要だと思います。100年前より環境の条件が厳しくなっている現状では、もの言わない生命との共感を持つことで、この地球に生き延びるチャンスが生まれてくるのです」
※登壇予定の赤池氏は荒天の影響で欠席となりましたため、急遽涌井氏にパネルディスカッションに参加していただきました